「営業に向いてない。」
住宅営業をしていた頃、私は毎日のようにそう思っていました。
入社2年目で初めて契約はいただけました。
でも、それは先輩に同席してもらい、先輩が流れをつくってくださった契約でした。
もちろん、お客様にとっても私にとっても忘れられない特別な契約です。今でも時々連絡を取ることがある、大切なお客様でもあります。
ただ、私の中では「自分の力で契約できた」という実感はありませんでした。
その後は契約が取れない日々。
営業に向いていない。
あと1年だけ頑張って、それでもダメなら辞めよう。
そんな気持ちで3年目を迎えていました。
私の営業人生を変えた40代の新婚ご夫婦

ある日、モデルルームに40代の新婚ご夫婦が来場されました。
結婚を機にマンションを探されていて、希望のエリアや予算、通勤、休日の過ごし方などをお聞きしていました。
そして私は、こんな質問をしました。
お子様のご予定や、お考えなどはありますか?
奥様は少し驚いた表情をされました。
そして少し間を置いて、
実は、この年齢ですけど子どもは考えたいなと思っています。もちろん授かれるかどうかは分かりませんが…
と話してくださいました。
今では高齢出産という言葉も以前より耳にするようになりましたが、当時は今以上に話しにくい雰囲気があったように思います。
実際、他のマンション見学では「ご夫婦二人で暮らす家」という前提で話が進むことが多かったそうです。
だからこそ、私の質問は少し意外だったようでした。
そして後から、「将来の希望を聞いてくれて嬉しかった」とも教えていただきました。
質問のタイミング
この質問は、とてもデリケートな内容です。
だから、誰にでも聞く質問ではありませんでした。
お客様との会話や表情を見ながら、「今なら聞いても大丈夫かな」と感じたときだけ、お聞きしていました。
これからどんな暮らしをしたいのか。
家族はどう考えているのか。
住宅は何十年も暮らす場所です。
だから今だけではなく、これから先の暮らしも一緒に考えたい。
そんな思いがありました。
家ではなく、「暮らし」を提案した

そこから私の提案は変わりました。
二人で住む場合と、家族が増えた場合。
どちらの暮らしも想定しながら、お話をしました。
書斎から子ども部屋に変更するかもしれない。
毎日の買い物は。
住宅ローンは無理がないかな。
必要な設備は何かな。
間取りや立地だけではなく、そのご夫婦の未来を一緒に想像しながら話をしました。
不思議とその日は、
「私の話がお客様に届いている。」
そんな感覚がありました。
「お願いします。」
契約の日のことは、今でもはっきり覚えています。
ご夫婦から、
お願いします。
そう言っていただいた瞬間です。
もちろん契約が決まったこともうれしかったです。
でも、それ以上にうれしかったのは、
私の提案がお客様に受け入れてもらえた。
そう心から感じられたことでした。
そして、ご夫婦はこんな言葉をかけてくださいました。
こんなふうに先のことまで考えてくださって、本当にうれしかったです。これからの暮らしに合う提案をしていただけて心強いと感じました。
入居できる日が本当に楽しみです!よろしくお願いします。
あの言葉は、今でも忘れられません。
私の営業は、この日から変わった
この契約を境に、私は営業の仕方を変えました。
契約を取ることを考えるより、
「このご家族はどんな暮らしをしたいんだろう。」
そう考える時間を増やしました。
休日はどんなふうに過ごしたいですか。
今のお住まいで困っていることはありますか。
将来はどんな生活を思い描いていますか。
家の話だけではなく、その人の暮らしを知ろうとしました。
すると、不思議なくらい契約が決まるようになりました。
紹介をいただくことも増えました。
会社で何度も表彰していただけるようにもなりました。

知識が増えたことも理由の一つだと思います。
経験を積んだからということもあるでしょう。
でも、一番大きかったのは、
「売ろう」とすることをやめて、「知ろう」とするようになったこと。
それだったと思っています。
今の仕事でも、ブログでも同じことを考えている
住宅営業を辞めた今、私はマーケティングの仕事をしています。
そして、このブログも書いています。
仕事は変わりました。
でも、一番大切にしていることは変わっていません。
「この人は、本当は何に悩んでいるんだろう。」
「どんな暮らしを望んでいるんだろう。」
その答えを知ろうとすること。
住宅営業3年目、成績が出ずに悩んでいた私を変えてくれたのは、一組のご夫婦でした。
あの日の「お願いします。」は、契約の言葉ではありませんでした。
私にとっては、
「あなたの考え方で大丈夫ですよ。」
そう背中を押してもらえた言葉だったような気がしています。
あのお客様との出会いがあったからこそ、今の私があります。
だから今でも、ときどきあの日のことを思い出します。


